2019年10月2日水曜日

コラム11足目 〜私のピカイチ弁当〜


朝日新聞 地域コミュニティ紙

我が街かわら版 

コラム『ウタ唄いの母ちゃん』
11足め

〜私のピカイチ弁当〜



来春から、
幼稚園に入園する息子の弁当作りが始まる。

面倒だと嘆くお母さん達も多いが、
私は夫と結婚してから八年間、
弁当作りはルーティンになっているので、
そこに関しては、さほど問題と感じていない。
逆に、おかずが弁当箱にピッタリ詰まった光景は、
朝から程よい達成感を感じる。

私のオリジナル曲で、
学生時代の弁当の思い出を綴った
「ピカイチ弁当」というアップテンポな楽曲がある。
それまで、決して明るいとは言い難い作品が殆どを占める中で完成したこの曲。
自分で作っておきながら、
今までの作風をぶち壊してしまうかもしれないという恐怖さえ感じていた。

だが、そんな心配は無駄だった。
恐る恐るライブで歌い出すと、
お客様は揃って笑顔に。
気付けば会場から自然と手拍子が響き、
今ではライブの最後に歌うことも増えている。

曲の出だしの歌詞にも出てくるが、
私の母の作る弁当は常に茶色、
つまり彩りに乏しかった。
カラフルで可愛い友達のお弁当を羨みながら、
父のお下がりである
ステンレスの大きな弁当箱を開ける毎日。
中学時代から食欲旺盛だった私は、
止むを得ず色気より食い気に徹した。
だが自分に家族が出来て、毎日料理を作るようになると、
母の作るおかずの品々は
地味だが味は格別だったことを知る。
人も弁当も見た目じゃ無いのだ!
そんな思いが溢れ、あの曲は生まれたのだった。


ある時、
いつもライブに来て下さる方からメールが届いた。
その方は子供がまだ幼い頃に離婚し、
男手一つで子育てしてきたという。
慣れない家事に奮闘し、毎日弁当も作った。
「ピカイチ弁当」を聴いていると、
そんな日々を懐かしく思い出し
涙が出そうになります、という内容のものだった。
自分の曲が、
誰かの人生をそっと優しく振り返る瞬間をもたらせた、
そう感じるだけでこちらまで鼻がツーンとした。

お弁当には人それぞれ、
何かしらの思い出が詰まっている。
夫にも、そしてこれから息子にも、
母ちゃんの思いを存分に詰め、
弁当を作ろうと思う。

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